「富の移転」とは、現金、預貯金、株式、不動産、事業用資産などが、相続や生前贈与を通じて別の人へ引き継がれることです。日本では高齢世代が多くの資産を保有する一方、相続件数や相続税の申告規模も大きくなり、「大相続時代」という表現が使われるようになりました。本記事では、富の移転の意味、2026年時点の相続・贈与ルール、不動産相続の注意点、世代間格差や消費への影響、米国の規模まで、公式統計と公的資料を基にわかりやすく解説します。
この記事の目次
- 富の移転とは何か
- 2026年に「大相続時代」が注目される理由
- 富の移転のメリット・デメリット
- 贈与税と相続税の基本的な対策
- 不動産相続で注意すべきこと
- 富の移転と世代間格差の関係
- 消費動向や経済に与える影響
- 米国で予測されている富の移転の規模
重要:本記事は2026年7月31日時点の一般的な制度を説明するものであり、個別の節税方法を推奨するものではありません。税額や適用できる特例は、家族関係、財産内容、贈与時期、居住状況などによって変わります。実際の申告や契約は、国税庁の最新情報を確認し、必要に応じて税理士、司法書士、弁護士などへ相談してください。
富の移転とは?意味をわかりやすく解説
富の移転とは、ある人や世代が保有する財産が、別の人や世代へ移ることを指す幅広い言葉です。法律上の統一された制度名ではなく、経済、金融、相続、税務などの分野で使われる一般的な表現です。
個人間で行われる代表的な富の移転には、次のようなものがあります。
| 方法 | 内容 | 主に関係する税金 |
|---|---|---|
| 相続 | 死亡した人の財産上の権利や義務を相続人が引き継ぐ | 相続税 |
| 遺贈 | 遺言によって財産を特定の人や団体へ渡す | 原則として相続税 |
| 生前贈与 | 存命中に無償で財産を渡し、相手が受け取る | 贈与税、将来の相続税 |
| 事業承継 | 会社株式や個人事業の資産、経営権などを後継者へ移す | 相続税、贈与税、所得税など |
相続では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借入金、未払金などのマイナスの財産も引き継ぐ可能性があります。富の移転を考える際は、資産額だけでなく負債、保証、共有関係、維持費なども含めて確認する必要があります。
2026年に「大相続時代」が注目される理由
「大相続時代」は法律や政府統計に定められた正式名称ではありません。高齢化に伴い、長年蓄積された資産が相続や贈与によって次の世代へ移る局面を表す言葉として使われています。
日本の家計金融資産は2,386兆円
日本銀行が2026年6月に公表した資金循環統計によると、2026年3月末時点の家計金融資産は2,386兆円でした。このうち現金・預金は1,126兆円で、全体の47.2%を占めています。
この数値には、若い世代を含む家計部門全体の金融資産が含まれており、すべてが相続対象になるわけではありません。また、不動産などの実物資産は含まれていません。それでも、世代間で将来移動し得る金融資産の母体が大きいことは確認できます。
高齢世帯は相対的に多くの貯蓄を保有している
内閣府の令和7年版高齢社会白書によると、二人以上の世帯における貯蓄現在高の中央値は、世帯主が65歳以上の世帯で1,604万円、全世帯では1,107万円でした。65歳以上の世帯の中央値は、全世帯の約1.4倍です。
ただし、高齢者の全員が多額の資産を持つわけではありません。平均値や中央値だけでは、世帯間の大きな差を表しきれない点に注意が必要です。医療、介護、住宅修繕、長寿への備えとして、資産を取り崩しにくい事情もあります。
相続税の申告規模は過去最高水準
国税庁の令和6年分の相続税申告事績では、死亡者数160万5,378人のうち、相続税の申告書の提出に係る被相続人数は16万6,730人、課税割合は10.4%でした。
相続税額がある申告における課税価格の総額は23兆3,846億円、申告税額は3兆2,446億円で、いずれも2015年の基礎控除引下げ以降で最高となりました。
課税対象となった相続財産の構成比は、現金・預貯金等34.9%、土地30.2%、有価証券17.8%、家屋4.8%、その他12.3%です。これらは相続税額がある申告書に基づく数値であり、課税されなかった相続を含む日本全体の財産移転額ではありません。
死亡数が高い水準で推移している
厚生労働省の人口動態統計月報年計によると、2025年の死亡数は概数で158万9,489人でした。前年より減少したものの、年間約159万人という規模です。
死亡した人の全員に相続税が発生するわけではありませんが、預貯金の解約、不動産の名義変更、遺産分割など、何らかの相続手続きが必要となる家庭は多くあります。
富の移転のメリット
必要な時期に資金を渡せる
生前贈与を活用すると、住宅購入、子育て、教育、開業など、受け取る側の支出が多い時期に資金を渡せます。死亡後の相続では、子がすでに高齢となってから財産を受け取る場合もあるため、生前の支援には資金を早く活用できる利点があります。
財産の行き先を本人が決めやすい
生前贈与や遺言を適切に利用すれば、誰に何を渡すかという希望を示しやすくなります。特に不動産、非上場株式、事業用設備など、複数人で分けにくい財産では、早めの方針整理が重要です。
家族が資産の内容を把握できる
預金口座、証券口座、不動産、保険、借入金、デジタル資産などを生前に整理すると、相続発生後の調査負担を軽減できます。財産目録や連絡先一覧を作成しておくことも有効です。
経済活動に使われる可能性がある
受け取った資金が住宅、教育、耐久消費財、事業投資、借入金の返済などに使われれば、家計の消費や投資を支える可能性があります。ただし、受け取った資産がそのまま貯蓄や金融商品へ回る場合もあり、必ず消費が増えるとは限りません。
富の移転のデメリット
贈与した側の生活資金が不足するおそれ
生前贈与した財産は、原則として贈与を受けた人のものになります。想定以上に長生きした場合や、高額な医療・介護費が必要になった場合、贈与者自身の資金が不足する可能性があります。
贈与税だけでなく相続税にも影響する
年間110万円以下の贈与であっても、相続開始前の一定期間に行われた暦年課税の贈与は、相続税の課税価格へ加算される場合があります。「毎年110万円なら必ず相続税と無関係」という理解は正確ではありません。
家族間の不公平感や争いにつながることがある
一部の家族だけに多額の資金を渡すと、相続時の遺産分割や遺留分を巡る対立につながる可能性があります。贈与の目的、金額、日付を記録し、家族へ説明できる状態にしておくことが大切です。
不動産は維持費や管理責任も移る
不動産を受け取ると、固定資産税、修繕費、管理費、火災保険料、解体費などの負担が生じます。収益性が低い土地、老朽化した建物、遠方の空き家などは、資産価値より管理負担が大きくなる場合があります。
富の移転で最も誤解されやすいのが、「110万円までなら何年続けても問題ない」という考え方です。2026年に適用される贈与税と相続税の重要ルールを次のページで整理します。



