実質株主判明調査では何を調べるのか
実質株主判明調査とは、株主名簿上の名義株主の背後にいる機関投資家や運用会社などを確認する調査です。上場会社が株主構成を把握し、IR・SR活動や株主との対話、株主総会への対応などに活用する目的で行われます。
実質株主判明調査は、単一の公的データベースを照会すれば完了するものではありません。複数の情報を組み合わせ、名義株主から実際の指図権者までの保有経路を確認していく必要があります。
実質株主を特定する主な方法
- 株主名簿の確認
信託銀行、資産管理銀行、海外金融機関など、実質株主が背後にいる可能性のある名義を確認します。 - 大量保有報告書の確認
上場株券等の保有割合が5%を超えた者は、原則として大量保有報告書を提出する必要があります。EDINETに開示された情報から、大口の保有者や共同保有者を確認できます。 - 仲介機関への照会
名義株主やカストディアンなどを通じて、議決権行使の指図権限を持つ投資家の名称、所在地、保有株式数などを確認します。 - 議決権行使に関する情報の分析
議決権電子行使プラットフォームの利用状況や、過去の議決権行使、株主との対話記録などを参考にします。 - 公表資料との照合
機関投資家が公表する保有方針、議決権行使方針、スチュワードシップ活動報告などを確認します。
調査をしてもすべての実質株主が判明するとは限らない
現行制度では、大量保有報告制度の対象となる場合などを除き、上場会社がすべての実質株主を強制的に特定できる仕組みは整っていません。
海外の保有経路では複数の金融機関が介在することがあり、照会に時間を要する場合があります。また、調査への回答が任意の範囲にとどまるケースや、調査基準日と回答日の間に売買が行われるケースもあります。
したがって、実質株主判明調査で作成された保有状況は、一定時点の情報に基づく推計を含むことがあります。投資家の名称が判明しても、現在も同じ株式数を保有しているとは限りません。
2025年のスチュワードシップ・コード改訂で透明性を強化
金融庁は2025年6月、日本版スチュワードシップ・コードを改訂し、実質株主の透明性向上に関する指針を盛り込みました。
改訂コードでは、機関投資家は投資先企業との間で建設的な対話を行うため、企業から求められた場合、自らがどの程度その企業の株式を保有しているかを説明すべきとされています。また、企業から保有状況の説明を求められた場合の対応方針を、あらかじめ公表すべきとされています。
ただし、スチュワードシップ・コードは法律そのものではありません。コードを受け入れた機関投資家が各原則を実施し、実施しない場合には理由を説明するという、原則主義に基づく仕組みです。すべての株主に一律の回答義務を課す制度とは異なります。
実質株主確認制度とは?2026年の会社法改正議論
2026年7月時点では、実質株主確認制度の創設に向け、法制審議会の会社法制に関する部会で具体的な検討が進められています。2026年3月には中間試案が取りまとめられ、その後は意見公募の結果などを踏まえ、要綱案の取りまとめに向けた審議が行われています。
現時点では検討段階であり、会社がすべての実質株主を確認できる新制度がすでに施行されているわけではありません。今後の要綱決定、法案提出、国会審議、公布、施行日などを確認する必要があります。
検討されている制度の主な方向性
法制審議会の資料では、主に次のような仕組みが検討されています。
- 会社から名義株主への情報提供請求
上場会社が名義株主に対し、実質株主または次の仲介機関に関する情報の提供を求める仕組みです。 - 仲介機関を通じた照会の連鎖
名義株主の背後に別の仲介機関がいる場合、照会を順次転送し、議決権行使の指図権限を持つ者に近づいていくことが想定されています。 - 実質株主に関する情報の回答
氏名または名称、住所、連絡先、指図権限を持つ株式数などを回答対象とする案が検討されています。 - 大口保有者から発行会社への通知
金融商品取引法上の大量保有報告書を提出すべき者に対し、発行会社にも所定の通知を行う仕組みが検討されています。 - 違反時の実効性確保
情報提供義務に違反した仲介機関などに対する過料や、一定の通知義務違反・大量保有報告制度違反と議決権停止を結び付ける仕組みが論点となっています。
制度の詳細については、対象となる会社や株主の範囲、回答期限、提供する情報、海外の仲介機関への対応、虚偽回答の扱い、議決権停止の要件など、慎重な制度設計が求められています。
実質株主開示制度は一般公開データベースとは限らない
「実質株主開示制度」という言葉から、誰でも企業の実質株主一覧を閲覧できる制度を想像するかもしれません。しかし、検討されている制度の中心は、発行会社が株主との対話や株主総会への対応に必要な情報を取得できるようにすることです。
会社が取得した実質株主情報を、どの範囲で他の株主や一般に開示するのかは別の問題です。実質株主確認制度が導入された場合でも、すべての情報が一般公開されるとは限りません。
実質株主が判明しても、その投資家が株主総会に直接出席し、自由に議決権を行使できるとは限りません。名義株主との関係や議決権行使の実務は、次のページで確認しましょう。


